懇親会の出欠表に、「欠席」が並ぶ。理由の欄には、お迎え、通院、終電、「お酒が飲めないので」。
集まった人どうしの会話は弾んでいる。それでも、来られなかった人の顔が、担当者の頭に残ります。
この記事は、企業の人事・総務・健康経営の担当者に向けて書いています。社内の交流イベントや、運動・体を動かす機会を、チームづくりにどう活かすか。健康経営との関係、飲み会とは別の交流の場の考え方、拠点やリモートで離れたチーム、世代や立場のちがうメンバーとの場づくり、社内イベントを一度きりで終わらせない工夫、企画の前に決めておきたいことを、順にまとめました。
健康経営の取り組みを、チームづくりにもつなげる
健康経営優良法人認定制度のポータルサイト「ACTION!健康経営」では、健康経営を「従業員などの健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と説明しています。そのうえで、組織の活性化や生産性の向上、企業価値の向上などの効果が期待される、としています。
健康診断、ストレスチェック、スポーツジムの利用補助。こうした取り組みは、一人ひとりの健康を支える土台です。ただ、その多くは個人で受けて、個人で完結します。ジムの補助を誰が使っているのか、隣の席の人も知らない。そんなことも珍しくありません。
そこで、もうひとつの形として考えたいのが、同じ時間に、同じ場所で、何人かで体を動かす機会です。健康づくりの取り組みでありながら、社員どうしが顔を合わせる場にもなります。
職場で体を動かすのは、個人の努力だけでは難しい
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、成人に向けて「今よりも少しでも多く身体を動かす」ことをすすめ、座りっぱなしの時間が長くなりすぎないよう注意することも挙げています。
同じガイドの情報シート「働く人が職場で活動的に過ごすためのポイント」には、こんな趣旨の一文があります。職場で活動的に過ごすことの意義について共通の認識がなければ、同僚から「仕事をさぼっている」と勘違いされてしまうかもしれない。
オフィスで一人だけ立ち上がって伸びをするのは、案外勇気がいります。情報シートでは、個人だけに働きかけるのではなく、組織としての対策も講じることで集団全体への効果が高まるという考え方や、組織のリーダーが率先して活動的に過ごすことで、体を動かしやすい雰囲気が生まれるという例が紹介されています。会社として体を動かす時間をつくることは、それ自体が「ここでは体を動かしていい」というメッセージとして伝わることがあります。
飲み会とは別の交流の場がひとつあると、参加できる人が増える
お酒の席だからこそ聞ける話もあります。懇親会を大切にしている職場も多く、やめる必要はありません。
一方で、夜の集まりには、どうしても参加しにくい人がいます。
- お酒を飲まない人、飲めない人
- 保育園のお迎えや介護で、夕方以降の予定を入れにくい人
- 遠方の拠点や在宅で働いていて、会場まで来るのが難しい人
- 夜の時間は、自分や家族のために使いたい人
就業時間内に、お酒なしで、短い時間で。そんな交流の場が飲み会とは別にひとつあるだけで、顔を合わせられる人の幅は広がります。
体を動かす時間は、その選択肢のひとつです。ストレッチ、音楽に合わせた軽い体操、ウォーキング、ダンスやフィットネスのレッスンなど、内容は参加する人に合わせて選べます。会話が得意でない人も、同じ動きをしているあいだは無理に話題を探さなくてすみます。終わったあとに「肩、軽くなりましたね」と、隣の人に話しかけるきっかけも生まれます。
拠点やリモートで離れたチームには、同じ時間を過ごす場を
「チャットでは毎日やりとりしているのに、声を聞いたことがない」
拠点が分かれていたり、在宅勤務が中心だったりすると、仕事のやりとりは続いても、人となりを知る機会は減ります。画面の向こうの人は、いつも肩から上しか見えません。
離れたチームでは、年に何回かある「全員がそろう日」を活かす方法があります。全社会議、期初のキックオフ、周年の行事、新入社員の研修。プログラムの中に、全員で体を動かす時間を15分ほど入れておく。座りっぱなしが続く長い会議の、ちょうどよい区切りにもなります。
オンラインでも、会議の冒頭の数分、カメラの前で一緒に肩を回すところからなら始められます。会場とオンラインの両方から参加する人がいる場合は、オンライン側が「見ているだけ」にならないよう、画面越しでも同じように動ける内容にしておきます。
世代や立場がちがっても、体を動かす時間は同じところから始められる
年齢、国籍、職種、働き方。メンバーが多様になるほど、共通の話題は見つけにくくなります。言葉で距離を縮めようとしても、相手の前提がわからず、つい慎重になる。業務連絡だけの丁寧な関係のまま、何年も過ぎることもあります。
体を動かす時間は、その手前から始められます。初めての動きは、部長にも新人にも初めてです。リズムに遅れて笑う人がいて、隣の人が自然にテンポを合わせる。会議室では見えなかった一面が、ふと見えることがあります。
タイミングをそろえて動くことと、協力についての研究
ほかの人とタイミングをそろえて行動することが、協力とどう関わるかを調べた研究があります。米スタンフォード大学の研究者 Wiltermuth と Heath が2009年に発表した論文では、3つの実験で、ほかの人と動きをそろえて行動した参加者は、その後の集団での経済ゲームで、より協力的な行動をとったと報告されています。自分が損をする場面でも、同じ傾向が見られました。
ただし、これは実験室での研究です。職場で一度体を動かせば、チームの協力が深まると言えるわけではありません。同じリズムで動く体験は、人と人のつながりに関わることがあるかもしれない。その程度の手がかりとして受け取るのが現実的です。
体力や体調のちがいを、最初から前提にしておく
多様なメンバーが集まるということは、体力や体調もさまざまだということです。腰痛がある人、妊娠中の人、持病がある人、運動そのものに苦手意識がある人もいます。
立ってもできるし、座ったままでもできる。動きの大きさは自分で選べる。途中で休んでいいし、見ているだけでもいい。こうした選択肢を最初に伝えておくと、「全員参加」の重さが和らぎます。上手にできるかどうかは問わない。その前提を、企画する側が先に示しておくことが大切です。体調に不安がある人や、通院中・妊娠中の人には、事前に医師や産業医に相談してもらうよう案内しておくと安心です。
社内イベントを「福利厚生」で終わらせないために
社内イベントの報告は、「参加者◯名、満足度◯%」で終わりがちです。それも大事な記録です。ただ、せっかく社員が集まる機会なら、その時間をチームづくりや企業文化にもつなげたいところです。
社員を「社内のファン」として捉え、会社の考え方や大切にしていることを社内に届けていく取り組みを、インターナルマーケティングと呼ぶことがあります。社員の健康を大事にしたい。部署をこえて協力し合える会社でありたい。そうした考えは、社内報やトップのメッセージでも伝えられます。そのうえで、会社が実際にそういう時間をつくり、社員がそこで過ごすことでも伝わっていきます。
イベントの目的を、会社のいまの課題とつなげる
「健康のため」だけでなく、「新しく入った人と先輩社員が顔見知りになる」「拠点のちがうメンバーが、名前と顔を一致させる」など、その会社のいまの課題とつなげて目的を一文で書いておきます。目的がはっきりしていれば、内容も、振り返りの観点も決めやすくなります。
一度きりにせず、日常に小さく残す
大きなイベントのあとに何も続かないと、思い出だけが残ります。イベントで覚えた短いストレッチを、週に一度の定例会議の冒頭で続ける。次の全社会議にも同じ時間を入れる。小さくても続く形を、イベントを企画する段階で考えておきます。
振り返りでは、人数以外のことも聞く
参加者アンケートに「今日、初めて話した人はいましたか」「次も参加したいと思いますか」といった質問を入れておくと、交流の場としてどうだったかが見えてきます。参加しなかった人にも、聞ける範囲で理由を聞いておくと、時間帯や内容を見直す手がかりになります。
企画の前に決めておきたいこと
時間帯と長さ
就業時間内に行うのか、昼休みを使うのか。昼休みに行う場合は、休憩時間が減ると感じる人もいるため、勤務時間としての扱いを決めておきます。初めての回は、15〜30分ほどの短い時間から始めると、参加のハードルが下がります。
参加のしかた
参加は任意にして、見学や途中参加・途中退出も認めます。上司の「みんな出るよね」という一言が、実質的な強制にならないよう、案内文の書き方にも気を配ります。
場所と服装、安全の準備
- 会議室の机を寄せて、腕を広げてもぶつからない広さがとれるか
- 床がすべりにくいか、つまずきやすい物を片づけてあるか
- 仕事の服装のままできる内容か、着替える場所が必要か
- 水分補給ができ、体調がすぐれない人が休める場所があるか
リーダーが先に参加する
先ほどの情報シートにもあるように、リーダーが率先して体を動かすと、ほかの人も動きやすくなります。役員や部長が最初の回に参加して、うまくいかない姿もそのまま見せる。それだけで、場の空気が変わることがあります。
進行役を誰にするか
社内で進行役を立てるか、外部の講師に頼むかを決めます。外部に頼む場合は、指導経験に加えて、運動経験のない人や年齢の幅がある参加者に合わせて内容を変えられるか、会場とオンラインの両方に対応できるかを確かめておきます。参加者の人数や年齢層、会場の広さ、イベントの目的を事前に伝えておくと、内容を合わせてもらいやすくなります。
小さく始めて、社内に合う形を探していく
最初の回で、全員が前向きに動くとはかぎりません。後ろのほうで腕を組んで見ている人もいます。それでも、2回目には少しだけ前に来る人がいる。会議の前に「今日もあれ、やりますか」と声がかかる。そういう変化が出てきたら、その時間は社内に根づきはじめています。
次の社内イベントを考えるときは、前回の出欠表で「欠席」に名前があった人を、ひとり思い浮かべるところから始められます。その人が参加できる時間と形は、どんなものか。そこから、企画の輪郭が見えてきます。
LinoPod は、ダンスやフィットネスを伝えたいインストラクターと、体を動かすことを楽しみたい人たちをつなぐサービスです。企業さま向けには、社内イベントや健康づくりのプログラムのご相談をお受けしています。参加される方の人数や年齢層、イベントの目的をうかがって、どんな形ができるかを一緒に考えるところから始めます。
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参考
- ACTION!健康経営(健康経営優良法人認定制度ポータルサイト/健康経営優良法人認定事務局)https://kenko-keiei.jp/
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」推奨シート:成人版(e-ヘルスネット)https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/exercise/s-00-002.html
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」情報シート:働く人が職場で活動的に過ごすためのポイント(e-ヘルスネット)https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/exercise/s-00-006.html
- Wiltermuth, S. S., & Heath, C. (2009). Synchrony and cooperation. Psychological Science, 20(1), 1-5. DOI: 10.1111/j.1467-9280.2008.02253.x(PubMed)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19152536/
(参考のページは、2026年10月29日に確認しました)
「健康経営®」は、特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。




