ダイバーシティ時代のチームビルディング|「身体を動かす」ことがコミュニケーション活性化につながる理由

多様な人材が集まる職場のロジックで語り合えない「壁」をどう越える

多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まる組織。 本来なら化学反応が起きるはずのその場所で、互いに気を使い合い、見えない壁を感じているとしたら。その原因は、私たちが**「相手を知る手段」を言葉だけに頼りすぎている**からかもしれません。

言語が違えばニュアンスは伝わりづらく、世代が違えば前提知識も異なります。ロジックで理解しようとすればするほど、どうしても「壁」は高く感じられてしまうものです。

動きや表情といった「身体情報」は、言葉よりも多くの情報を雄弁に語ります。 今回は、身体表現を通じたコミュニケーションが、いかにして多様な個をつなぐ良きコミュニケーションツールになるのか。そのメカニズムをみて見ましょう。

お互いの理解を育むために、共有する時間の過ごし方を考える

ミーティングの場だけではコミュニケーションの活性化は生まれない

多様な人材が活躍する組織において、最大の課題は「文脈(コンテキスト)の共有」です。

異なるバックグラウンドを持つメンバーが集まる職場は、新しい発見に満ちています。一方で、それぞれの「当たり前」が違うからこそ、**「感覚の共有」**には少し工夫が必要になる場面もあるでしょう。

世代や文化が違えば、同じ言葉を使っていても、その受け取り方は少しずつ異なるものです。お互いを尊重しようとするあまり、会話が慎重になりすぎたり、業務連絡だけの丁寧な関係に留まってしまったり……。

お互いに配慮し合うからこそ、言葉だけのやり取りでは、心の距離を近づけるのに少し時間がかかってしまうこともあるかもしれません。

組織にとって大切な、アドラー心理学でいう「共同体感覚(仲間)」。これを育むには、実はもっとシンプルで、最短の近道とも言える方法があるかもしれません。

難しいことは考えず、同じ時間を共有し、身体を動かす。ただそれだけで、メンバー同士の親密度はぐっと高まります。 まずは「仲間」になること。それが、風通しの良い組織をつくり、コミュニケーションを活性化への第一歩になるでしょう。

身体という「共通言語」:ダンスがD&Iを加速させるメカニズム

なぜ、ダンスや身体表現がビジネス組織、特にダイバーシティ推進に効くのでしょうか。それは、ダンスが原始的かつ強力な**「非言語(ノンバーバル)コミュニケーション」**そのものだからです。

1. シンクロニー(身体的同期)が「異物」を「仲間」に変える

人間には、自分と同じ動きをする相手に対して、理屈抜きで好意や仲間意識を抱く本能があります。これを心理学や脳科学の分野では**「シンクロニー(同期)」**と呼びます。

例えば、音楽に合わせて全員で同じステップを踏む。あるいは、ペアになって相手の動きを真似る(ミラーリング)。

たったこれだけのことで、脳内のミラーニューロンが活性化し、「この人は敵ではない」「同じリズムを共有する仲間だ」という信号が送られます。言葉で「相互理解を深めましょう」と説くよりも、3分間一緒に体を動かすほうが、圧倒的に早く心の壁を取り払うことができるのです。

2. 階層と属性をリセットする「役割の解除」

普段の業務では、「上司と部下」「ベテランと新人」「日本人と外国人」といったラベル(属性)がついて回ります。

しかし、ダンスや身体ワークショップの場では、そのラベルはなく平等です。

  • 社長がリズムを取り損ねて苦笑いする。
  • 新入社員がキレのある動きで皆を驚かせる。
  • 言葉が苦手な外国人スタッフが、豊かな表現力で主役になる。

身体活動の中では、「業務上の役割」がいったん解除され、一人の人間としての「素」が表出します。

互いの「不完全さ」や「意外な一面」を見せ合うことは、「心理的安全性(Psychological Safety)」の土台そのものです。「ここでは失敗しても大丈夫」「素を出しても受け入れられる」という安心感は、その後の会議での活発な発言や、イノベーションを生む土壌となります。

3. 「感情の伝染」によるエンゲージメント向上

感情は身体の動きと連動しています。背中を丸めて下を向けば気分は沈み、胸を開いて顔を上げれば前向きになります。

チーム全体で身体を動かし、「いい汗をかく」というポジティブな身体感覚を共有することは、組織全体の「感情のトーン」を引き上げることに直結します。

経産省が課題視する「プレゼンティーイズム(出勤しているが不調で成果が出ない状態)」の多くは、メンタルヘルスの不調や慢性的な疲労感に起因します。ダンスによる適度な有酸素運動と、他者との交流による高揚感は、このプレゼンティーイズムを解消し、組織のエンゲージメント(熱量)を回復させる強力な処方箋となり得るのです。

なぜ今、ビジネスに「フィジカル」なのか(市場背景)

「仕事中にダンスなんて」と思われるかもしれません。しかし、市場データは、企業が従業員の「身体」と「心」にもっと深く関与すべきであることを示しています。

拡大するヘルスケア市場と「健康経営」の進化

経済産業省の調査によると、ヘルスケア市場は2050年に約60兆円へ拡大すると予測されています。また、2024年度には上場企業の約8割が「健康経営度調査」に回答するなど、健康経営はもはや「当たり前のインフラ」となりました。

しかし、初期の「メタボ対策」や「喫煙率低下」といった**「守りの健康経営」は、すでに行き渡りつつあります。これからの企業に求められているのは、「攻めの健康経営」、すなわち「組織のパフォーマンスを最大化するための身体的アプローチ」**です。

「H&PM」が示す成功の鍵

学術的な枠組みである「健康・生産性マネジメント(H&PM)」の研究においても、単に制度を整えるだけでは不十分であり、「組織文化」や「戦略」との連動が不可欠であるとされています。

従業員に「健康のために運動しなさい」と指導するのではなく、**「チームビルディングの一環として、皆で楽しむ時間を共有する」**という文化的なアプローチこそが、持続可能であり、かつ組織開発としての効果も高いのです。

教育分野の研究でも、ダンスは「運動機能」だけでなく「自己表現」「コミュニケーション」の複合効果があることが実証されています。この効果を、大人の組織に応用しない手はありません。

現場ですぐできる「身体的アプローチ」

いきなり本格的なダンスレッスンを導入する必要はありません。まずは、会議のアイスブレイクや研修の一部として、ハードルの低いアクティビティから始めてみましょう。

1. ミラーリング・ワーク(2人1組)

向かい合ってペアになり、片方がリーダーとなってゆっくり手を動かし、もう片方が鏡のようにそれを真似します。言葉は使いません。

  • 効果: 相手の呼吸や微細な動きに集中するため、深い「同調」が生まれます。ノンバーバルな会話の練習になります。

2. リズム・サークル(全員)

円になって立ち、一人が手拍子で簡単なリズムを作り、隣の人がそれを真似して回していきます。慣れてきたらリズムを変えたり、足踏みを加えたりします。

  • 効果: 「間違えても笑い合う」雰囲気が作れます。全員で一つのリズムを作ることで、一体感(ユニティ)が醸成されます。

3. ポージング・チェックイン

会議の冒頭、今の自分の気分を「言葉」ではなく「ポーズ(身体)」で表現して自己紹介します。「ガッツポーズのような気分」「少し縮こまっている気分」など。

  • 効果: 言葉では言いにくい本音やコンディションを、ユーモアを交えて共有できます。リーダーがメンバーの状態を把握するのにも役立ちます。

組織のダイバーシティを「熱量」に変える

多様な人材が集まることは、本来、組織にとって大きな強みです。しかし、それをつなぐ「線」が弱ければ、バラバラの個が集まっているに過ぎません。

言葉や論理はもちろん大切です。しかし、それだけでは届かない領域——人間の本能的な「つながり」や「安心感」を醸成するために、「身体」という共通言語を取り入れてみてください。

少し体を動かし、リズムを合わせ、顔を見合わせて笑う。
そんなシンプルな時間が、凝り固まった組織の空気をほぐし、多様な個性が響き合う**「熱量の高いチーム」**へと変えていくはずです。

 

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