動くと、つながる。ダンスが職場にもたらす小さな、でも大きな変化。

健康経営がより重視されるようになった今、
従業員の心身の健康を守りながら、どうすれば組織をより強くできるのかーー。
そんな悩みを抱える企業は少なくありません。とくにコロナ禍を経て働き方がハイブリッド化したことで、人と人とのつながりが希薄になり、「心理的安全性(気兼ねなく意見を言えたり、失敗を必要以上に恐れずにいられる状態)」をつくることの難しさを感じる声も増えています。

経済産業省の調査では、健康経営度調査に回答する上場企業は225社中約8割にのぼり、健康づくりの市場規模は2020年の約18.5兆円から2050年には59.9兆円へ拡大すると見込まれています。
しかし、多くの企業が施策を進める中でも、「組織の雰囲気や関係性がなかなか変わらない」という課題は依然として残っています。

こうした状況の中で、近年注目を集めているのが“ダンス”を取り入れた健康経営・チームビルディングのアプローチです。
ダンスというとレクリエーションのように感じるかもしれませんが、実際には“動き”を通じてコミュニケーションの質を高め、心理的安全性を育てるための科学的なメソッドとして活用され始めています。

本記事では、プレゼンティーイズム(出社しているのに体調不良などで生産性が上がらない状態)への対策、心理的安全性(気軽に相談でき、意見を言いやすい空気づくり)の向上、そして組織に必要な一体感の醸成など、企業が直面する課題に対して、ダンスコミュニケーションがどのような効果をもたらすのかを探っていきます。
健康であることが、仕事の生産性にどのように寄与するのか――実際の事例やデータとともに、その可能性を紐解いていきます。

1. 動きから始まるチームづくり:健康経営にダンスプログラム

健康経営という考え方が浸透する中で、従業員の心身の健康を守りながら働きがいを高める取り組みを模索する企業が増えています。そうしたなか、近年 注目されているのが「企業内ダンスプログラム」です。福利厚生の一環というより、エンゲージメント向上や組織の活性化に寄与する新しいアプローチとして、導入企業で手応えが広がりつつあります。

ある大手製造業では、朝の体操をアレンジした「リズムダンス」を取り入れたところ、日常業務では接点の少ない部署同士でも自然なコミュニケーションが生まれたといいます。担当者によると、「導入後、部署を越えた情報共有が47%向上した」というデータも確認されており、社員同士の関係性を見直すきっかけになっているようです。

また、IT企業では週1回のダンスセッションを通じて、精神的ストレスの軽減と創造性の向上が報告されています。経営層からも「ダンスを通じて心理的安全性が高まり、アイデアを出しやすい雰囲気が生まれた」と語られるなど、組織づくりの一助として活用されています。

さらに、健康経営優良法人として認定されたコンサルティング企業では、リモート環境下でもオンラインダンスプログラムを展開。孤立感の軽減やチームの一体感醸成に役立ったという声が社員から寄せられています。

導入コストの低さも見逃せない点です。専門インストラクターの派遣費用は月5〜10万円程度と比較的手頃で、実施後の生産性向上が平均15%以上とのデータもあり、費用対効果の高さが注目されています。

健康保険組合連合会の調査でも、定期的な身体活動を促す企業は長期的に医療費負担が抑えられる傾向が示されており、経済的メリットも期待できます。

健康経営とエンゲージメント向上を両立したいと感じている企業にとって、ダンスプログラムは選択肢の一つとして検討する価値がありそうです。社員が自然に笑顔になり、組織に活力が生まれていく―そんな変化を後押しするきっかけになるかもしれません。

2. 一歩踏み出すだけで変わる関係性:ダンスが支えた働く人のメンタルヘルス

企業にとって悩ましい課題である「離職率」と「メンタルヘルス」。
これらを同時に改善できる可能性を持つ取り組みとして、近年「ダンスコミュニケーション」が注目を集めています。ある企業では、導入後に離職率が15%減少し、従業員のメンタルヘルスが大きく改善したという報告もあります。

たとえば、大手電機メーカーA社では、毎週水曜日の昼休みに15分間のダンスタイムを実施。
「最初は遠慮がちだった社員も、いまでは自然に参加するようになった」と人事担当者は話します。取り組みを始めてから、部署を超えたコミュニケーションが増え、社内の雰囲気が明るくなったという声も聞かれています。

また、ITサービス企業B社では、テレワーク中心の働き方で増えつつあった“孤独感”の課題に対し、オンラインのダンスセッションを導入しました。「画面越しでも一体感が生まれる」と好評で、ストレスチェックのスコアは導入前より23%改善したといいます。

ダンスコミュニケーションが効果を生む背景には、科学的な根拠もあります。
ダンスのような有酸素運動は、セロトニンやエンドルフィンなど「幸福感」に関わる物質の分泌を促進。また、音楽に合わせて他者と動きを揃えることで“シンクロ”が生まれ、自然と帰属意識が高まりやすくなります。

導入を後押ししたのは、「強制しない」というシンプルなポリシーでした。
人材サービス企業C社では、まずは5分ほどの軽いストレッチから始め、参加はあくまで自由に。担当者は「無理なく続けられる環境づくりが大事だった」と振り返ります。今では社員の78%が何らかの形で参加しているそうです。

さらに、コスト面での優位性も見逃せません。
会議室やオンライン環境があれば実施でき、外部講師を招く場合でも月1〜2回程度なら大きな負担にはなりにくいのが特徴です。中小企業でも取り入れやすい理由のひとつです。

メンタルヘルスへの効果も明確に表れています。
ある調査では、定期的にダンスプログラムを導入した企業では、ストレスレベルが低下し、病欠日数が平均22%減少したというデータもあります。心と体の健康を同時に整える“二重効果”が期待できる点は、多くの企業が魅力を感じるところでしょう。

企業文化への好影響も報告されています。
住宅関連企業D社では、ダンスイベントをきっかけに「挑戦を歓迎する雰囲気」が徐々に広がり、新規事業の提案数が前年比35%増加するという変化が見られました。

離職率の低減とメンタルヘルスの改善。
これらの課題に向き合う企業にとって、ダンスコミュニケーションはひとつの選択肢になりうるアプローチです。企業規模や文化に合わせて柔軟に運用できるため、導入しやすい点も魅力と言えるでしょう。重要なのは、「楽しさ」を入り口に、誰もが無理なく参加できる場をつくることなのかもしれません。

3. チームの見えない壁を低くする:ダンスプログラムの効果と投資価値(ROI)

企業内ダンスプログラムは、最近では単なる福利厚生の枠を超え、心理的安全性を高めるための実践的なツールとして関心が高まっています。Google社の「プロジェクト・アリストテレス」が示したように、チームの成果にとって心理的安全性は欠かせない要素のひとつです。こうした観点から、ダンスプログラムがどのように組織に寄与し得るのか、その投資対効果を見ていきましょう。

導入企業のデータによれば、従業員のエンゲージメントスコアは平均23%向上。さらに、チーム間のコミュニケーションに存在していた“壁”が約31%低減したという調査結果もあります。身体を使った非言語的な関わりが、立場や役職を越えて相互理解を促すことに寄与しているようです。

経済的な効果も見逃せません。ダンスプログラムを取り入れた企業では、欠勤率が平均17%減り、人材流出率も22%低下しています。採用や研修にかかるコストまで含めて試算すると、年間で一人あたり約35万円の削減効果につながったという報告もあります。

実践例としては、大手製薬会社のケースがあります。週に1度、15分間の「ムーブメントブレイク」を導入した部署では、半年後にストレス関連の休職が45%減少しました。また、総合電機メーカーのある部門では、ダンスを取り入れたチームビルディング後、プロジェクトの完遂率が28%改善したといいます。

心理的安全性を高めるうえで欠かせないのは、「失敗しても大丈夫」と感じられる空気です。ダンスの新しいステップに挑戦するときに生まれる“できない”体験を互いに共有することで、自然とそのハードルが下がり、チーム内に安心感が広がっていきます。

費用対効果の面でも、月額5万円程度で始められる費用効果は、従来型研修の3〜5倍とも言われています。初期投資が小さく、オンラインでもオフィスでも実施しやすいため、中小規模の企業にとっても導入しやすい点が魅力です。

ただし、本当に効果が表れやすいのは“継続的な取り組み”です。週1回・15分ほどのセッションを3ヶ月以上続けた企業で、最も大きなROIが確認されています。心理的安全性は一朝一夕に形成されるものではなく、小さな身体的体験を積み重ねることで信頼が育っていくのだといえるでしょう。

4. 動くと、つながる。健康経営企業が実践するチームづくりのヒント

経済産業省が進める「健康経営優良法人認定制度」では、従業員の健康と組織の活力づくりを同時に高めようとする企業の取り組みが評価されています。その中には、ダンスや軽い身体活動を日常に取り入れ、働く人どうしのつながりを育む工夫をしている企業も少なくありません。

たとえば、大手通信会社では、朝の体操を発展させた「モーニングダンスタイム」を導入しました。取り組みが広がるにつれ、社員同士の会話が自然と増え、これまで感じていた部署間の距離が少しずつ縮まっていったといいます。

また、別の企業では、チームビルディング研修に“リズムを介したコミュニケーションワーク”を導入。言葉に頼らず動きだけで気持ちを伝え合う体験が、参加者の心理的安全性を高めるきっかけになったそうです。「同僚の新しい一面に気づいた」「普段より気持ちを開きやすかった」という声も寄せられ、研修後の対話がよりスムーズになったという報告も聞かれています。

身体を動かす取り組みは、単なる健康促進にとどまりません。健康経営アドバイザーの調査でも、即興的な要素を持つダンスは創造性やチームワークを高め、ストレス軽減にも役立つとされています。オンラインでも参加できるため、働き方が分散した今の環境にもフィットしやすい点が特徴です。

さらに、大手不動産グループ企業では、四半期に一度「動きの文化祭」と名付けた社内イベントを開催。部署横断で参加できるダンス企画を通じて、普段関わりのない社員同士がつながる機会が生まれ、組織全体の一体感につながったそうです。

こうした取り組みがうまく根付いている企業には、共通点があります。それは「参加を強制しない」こと。多くの健康経営企業では、小さく気軽に始め、興味を持った人が少しずつ輪を広げていくような流れを大切にしています。経営層も無理のない範囲で参加し、場を“応援する存在”として関わることで、自然と全体に浸透していったというケースも多くみられます。

心と体の両面から働く人を支える企業内ダンスプログラムは、職場に「動くと、つながる」という新しい循環をもたらしているようです。これからのチームづくりのヒントとして、選択肢のひとつに加わっていきそうです。

5. 動きが心をほどくとき:生産性と創造性を支えるダンスプログラムのポイント

近年、多くの企業で「プレゼンティーイズム」が大きな課題として語られるようになってきました。
体調やメンタルの不調を抱えたまま働くことで、本来の力が発揮しきれない状態が続くと、従業員だけでなく組織全体にも静かに影響が蓄積していきます。そんな問題への対策として、ダンスを取り入れた取り組みに注目が集まっています。

ある製造業の企業では、ごく短いダンスタイムを業務の合間に取り入れたところ、社員が気持ちを切り替えやすくなり、午後の業務に取り組む意欲が高まったと感じる人が増えたといいます。また、別のIT企業では、週に数回のダンスワークショップが部署内の会話のきっかけとなり、チームのまとまりに良い影響をもたらしたという声も聞かれています。

東京大学大学院の健康経営研究チームの調査では、定期的に体を動かすプログラムを取り入れた企業では、社員のストレス反応が和らぎ、心身の負担が軽減される傾向があることが示されています。働く人が安心して力を発揮できる状態を、日々の小さな積み重ねによって支えていく取り組みといえるでしょう。

組織文化に変化が生まれている例もあります。
人材サービス企業のある部門では、上下関係に関係なく自由に参加できるダンスの時間を試験的に導入したところ、上司と部下の距離感がこれまでより近くなり、アイデアが生まれやすい空気が育っていったと語られています。

導入に成功している企業の共通点は、無理のない形で続けられる環境づくりです。短時間・小規模から始め、参加しやすい雰囲気をつくることで自然と広がっていくケースが多く見られます。

一方で、「恥ずかしさ」や「慣れなさ」を感じる人も少なくありません。そのため、最初は簡単なストレッチやリズム運動から始め、徐々に動きを広げていくなどの工夫が効果的だとされています。

ダンスによるプレゼンティーイズム対策は、単なる流行の施策ではなく、心と体の両面から働く人を支える実践的なアプローチとして定着しつつあります。動きによって心がほどけ、心がほどけることで創造性が生まれ、チームの力が自然に引き出されていく—
そんな循環が、これからの組織づくりに大きなヒントを与えてくれそうです。

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