コロナ禍を経て、多くの企業でリモートワークやハイブリッドワークが定着しました。働き方の選択肢が広がる一方で、「チームの一体感が薄れた気がする」「以前よりコミュニケーションが難しくなった」という声も少なくありません。経済産業省の調査では、心理的安全性の低下によるプレゼンティーイズムが年間約3.8兆円規模の損失につながっているとされ、見えにくい課題への対策が求められています。
こうした状況の中で、健康経営の観点を取り入れた新しいチームビルディングに取り組む企業が増え始めています。リモート環境でも“つながり”を実感しやすい手法を導入した結果、離職率の改善やチームの活性化につながったという報告もあり、これまでとは異なるアプローチが注目されつつあります。
デジタル化が進む今だからこそ、人と人の関係性をどう育て、組織としての力を引き出していくかが大切になっています。本記事では、リモート時代の課題に寄り添いながら、実際に成果を上げているチームビルディングの最新手法や、組織のウェルビーイングを高めるヒントをご紹介します。
あなたの組織に合った“新しいつながりの形”を探るきっかけになれば幸いです。
1. リモート時代に見直したい!チームビルディング成功の3つのポイント
リモートワークが一般化した今、チームの結束をどう育てていくかは、多くの企業にとって避けて通れないテーマになっています。対面での交流が難しい環境では、かつて当たり前だった“ちょっとした会話”や“空気感の共有”が失われがちで、その分だけ関係性の構築にも工夫が必要になります。
まず一つ目のポイントは、意識的にコミュニケーションの場をつくることです。物理的に離れていても、メンバー同士が“つながっている感覚”を持てることが、チームの安心感につながります。週次の振り返りや、数分の雑談タイムをあえてスケジュールに組み込む企業も増えており、ZoomやTeamsを使った15分の「バーチャルコーヒーブレイク」がその一例です。Microsoft社の調査でも、こうしたカジュアルな交流を続けているチームは生産性が向上したという結果が出ており、コミュニケーションの質が働きやすさに影響することが示唆されています。
二つ目のポイントは、オンラインに最適化されたアクティビティの導入です。従来の集合型イベントをそのままオンライン化しても、なかなか盛り上がりにくいことはよくあります。そこで、オンライン脱出ゲームやバーチャル料理教室、クイズ大会など、リモートならではの楽しみ方に目を向ける企業が増えています。Gather.townのようなバーチャル空間ツールを使い、自然に歩き回って話せるイベントを開催するケースもあり、オンラインでも心の距離が縮まりやすい工夫が広がっています。
三つ目は、成果を見えやすくし、自然と称賛し合える文化をつくることです。リモート環境では、メンバーの努力が見えにくい分、気づかれないまま孤立感につながることもあります。Trelloやkudosなどのツールでタスクの進捗や貢献を共有し、メンバー同士が気軽に称賛し合える場を設けることは、とてもシンプルながら大きな効果があります。ある企業では「感謝の壁」と呼ばれるオンラインボードをつくり、小さな貢献も互いに書き込める仕掛けがチームの雰囲気をやわらげているそうです。
こうした取り組みは、単に楽しい時間をつくるためだけのものではありません。物理的な距離があるからこそ、一体感や信頼をどう育てるかが、働きやすさや生産性に直結してきます。チームの状況に合わせてできる範囲から取り入れてみることで、リモート環境でも心地よく働ける関係性が少しずつ育っていくはずです。
2. データで見る健康経営×チームビルディング:離職率40%減の秘密とは
健康経営の取り組みとチームビルディングを組み合わせる動きが拡大する中で、その効果が数字として現れ始めています。ある大手IT企業では、この二つを統合したプログラムを導入した結果、1年で離職率が40%減少したという例が報告されています。取り組み方は企業によって異なるものの、共通して“健康”と“つながり”の両面から職場環境を整えている点が印象的です。
背景を見ていくと、従業員の健康状態と人間関係の質には強い関連があるとする調査が複数存在します。Microsoft社の調査では、定期的にオンラインチームビルディングに参加している従業員は、そうでない従業員に比べてストレスが低く、仕事への満足度も高い傾向が見られました。リモートワークが続く中で、心身の状態とチームの関係性が互いに影響し合う構図が浮かび上がっています。
さらに、健康施策を取り入れたチームビルディングが、業務そのものにも良い影響を及ぼしているケースもあります。マイクロソフト社の調査では、オンラインヨガやバーチャルウォーキングなど“健康をテーマにした交流”を定期開催することで、チーム内のコミュニケーション頻度が向上し、プロジェクトの完了率にも改善が見られたといいます。健康に配慮した活動が、自然と協働のしやすさにもつながっている例といえるでしょう。
健康経営銘柄に選ばれる企業の多くも、健康施策とチームビルディングを切り離さず、同時に扱う傾向があります。例えば、部署ごとの健康チャレンジを行った企業では、達成度合いとチームワークの改善に相関が見られたというデータもあります。目標を共有しながら取り組むことで、健康づくりが“チームの課題”として前向きに定着しているようです。
リモートワークが広がる中で、孤独感やメンタル不調が課題として挙がる場面が増えました。そうした中、健康経営の視点を踏まえたチーム活動を取り入れている企業では、メンタルヘルス不調による欠勤が減少したという報告もあります。無理に交流を促すのではなく、“心身を整える時間”を軸にすることで、参加しやすく効果も現れやすい点が特徴です。
これらのデータに共通しているのは、チームビルディングが単なるイベントではなく、健康を基盤とした“働きやすい土台づくり”の一部として機能しているという点です。
健康とチームワークは別々のものではなく、互いを高め合う関係にあり、その相乗効果が離職率の改善や生産性向上につながっている。そんな構図が少しずつ明らかになってきています。
3. 心理的安全性を高める新時代のチームビルディングのヒント 成功企業の共通点
リモートワークが広がったことで、チームの心理的安全性がこれまで以上に注目されるようになりました。画面越しのコミュニケーションでは気づきにくいことも多く、「意見を言いにくい」「相談しづらい」など、ちょっとした行き違いが積み重なりやすくなります。心理的安全性とは、メンバーが安心して意見や質問、ミスの共有ができる状態を指し、チームの生産性にも大きく影響することが分かっています。
Googleの研究プロジェクト「Project Aristotle」でも、高いパフォーマンスを発揮しているチームの共通点として心理的安全性が挙げられました。では、この安全性をどのように育てていけばいいのでしょうか。
参考になるのが、いくつかの企業が実践している取り組みです。
たとえば Microsoft では、通常の会議とは別に「学びの時間」を設け、メンバーが自分の困りごとや失敗を共有する場をつくっています。責めるのではなく、どう改善できるかを一緒に考えるスタイルで、プロジェクトの進行スピードが上がったという報告もあります。小さなことでも話せる時間があるだけで、安心感が生まれるようです。
Salesforce が取り入れている「感謝の共有」も、リモート環境によく合う取り組みです。会議の始めの数分を使い、互いへの感謝や最近嬉しかったことを言葉にするだけのシンプルな習慣ですが、チームの雰囲気がやわらぎ、コミュニケーション満足度が高まったという声が出ています。ちょっとしたプラスの共有が、気持ちの距離を縮めるきっかけになります。
また Spotify では、意見の不一致を「健全な対話」と考える文化づくりが進められています。リモートでは発言が偏りやすいため、誰もが書き込める共同ドキュメントを活用し、議論の場をフラットにする工夫を行っています。口頭で話すのが苦手な人でも参加しやすい仕組みです。
実際に導入する際は、無理のない範囲で“小さく試す”ことから始めるのがポイントです。週に一度、数分だけメンバーの近況や気になることを話す時間をつくるだけでも、チームの空気が少しずつ変わっていくケースが多く見られます。ブレイクアウトルームを使った少人数の対話も、意外と気持ちを開きやすいきっかけになります。
これらの取り組みに共通しているのは、
●脆弱性を見せることを奨励する ● 失敗が“学び”として扱われること
● 誰もが参加しやすい場づくりがされていること
という3つの要素です。
4. 働く場所が違うからこそ大切にしたい。ハイブリッドワークのチームづくりのヒント
ハイブリッドワークが一般的になり、働き方の選択肢が広がった一方で、「どうすれば一体感を保てるのか」という声も多く聞かれるようになりました。オフィスとリモート、それぞれが持つ良さを活かしながら協力し合うには、場づくりの工夫が欠かせません。
そのヒントとなるのが、いくつかの企業が取り入れている取り組みです。
たとえば Google では、週に数回「バーチャルコーヒータイム」を設け、業務とは離れた雑談の時間をつくっています。短い時間でも、普段関わりの少ないメンバー同士が気軽に話せることで、距離感が自然と縮まるようです。
Salesforce の「ハイブリッドハッカソン」も興味深い方法です。オフィスとリモートのメンバーが混ざってチームを組み、短期間で企画づくりに挑戦します。アイデア出しはオフィス、情報整理はオンラインなど、働く場所に合わせて役割を工夫することで、互いの強みを活かした協働が生まれています。
また、新メンバーのオンボーディングを支える仕組みとして「バディ制度」を導入する企業も増えています。オフィス勤務中心の社員とリモート中心の社員、2人のバディがサポートを担うことで、働き方の違いを超えたつながりができ、相談しやすい環境が整います。
Microsoft では、月に一度「ハイブリッドレトロスペクティブ」を実施。オフィス側・リモート側のそれぞれが感じていることを共有する時間を設けることで、互いの状況が見えやすくなり、チーム全体のまとまりが生まれているといいます。
これらの事例に共通しているのは、「どこで働いていても参加しやすい場づくり」に重点が置かれていることです。
取り入れる際のポイントとしては、
● オフィス・リモート両方にとってフラットな環境をつくる
● デジタルツールと対面コミュニケーションをうまく組み合わせる
● 定期的に振り返りを行い、改善を続ける
といった点が挙げられます。
ハイブリッドワーク下のチームビルディングは、特別なイベントよりも“日常の中に自然と溶け込ませること”が鍵になります。働き方が多様になった今だからこそ、それぞれの事情を尊重しつつ、共通の目的に向かって進めるチームづくりが求められているのかもしれません。
5. リモートで働く人の「調子」を支える。バーチャル環境のチームづくりのヒント
リモートワークが広がる中、多くの企業がプレゼンティーイズム(出社はしているが生産性が低い状態)の新たな形に直面しています。画面の前に座っているだけで実質的な貢献が少ない「バーチャル・プレゼンティーイズム」は、チーム全体のモチベーションと生産性を低下させる大きな課題です。
この問題を解決するためには、オンラインでも効果的なチームビルディング戦略が不可欠です。マイクロソフトの調査によれば、効果的なバーチャルチームビルディングを実施した企業では、リモートワーカーの生産性が32%向上し、離職率が24%減少したというデータもあります。
まず重要なのは、「成果主義」への明確なシフトです。Googleが採用している「OKR(Objectives and Key Results)」のようなフレームワークを活用し、「何時間働いたか」ではなく「何を達成したか」を評価する文化を醸成しましょう。これにより、単なる「オンライン上の存在証明」ではなく、実質的な成果を重視する姿勢が強化されます。
次に、非同期コミュニケーションと同期コミュニケーションのバランスを最適化することが重要です。Slackやasanaなどのツールを活用した非同期作業と、Zoom等を使った週1回の深いディスカッションセッションを組み合わせる企業では、メンバーの満足度が高まる傾向があります。
また、バーチャル空間での「心理的安全性」の確保も不可欠です。IBMが導入しているような「ノービデオデー」や「集中作業タイム」をチーム内で設定することで、常に監視されているという不安感を軽減し、真の創造性を引き出せる環境を構築できます。
さらに、オンラインでも実施可能な「マイクロチャレンジ」の導入も効果的です。Salesforceが実践しているような、15分程度の短時間でチームメンバーが協力して解決する小さな課題を定期的に設けることで、日常的な協働感覚を維持できます。
リモート環境でのプレゼンティーイズム解消には、テクノロジーの活用だけでなく、信頼をベースとした組織文化の醸成が最も重要です。リーダーが率先して成果志向の姿勢を示し、オープンなコミュニケーションを促進することで、どこにいても全力で貢献できるチームを築くことができるでしょう。
