身体が緩む ダンスの補強にオススメしたい陰ヨガ 取り入れて欲しい オススメポーズ解説付き

陰ヨガのインストラクターとして、日本でヨガを広めた第一人者ケンハマクラ先生が設立されたIYCインターナショナルヨガセンターでヨガクラスを担当されている、あおい先生に陰ヨガの魅力と先生ご自身もダンスを楽しまれているからこそ理解できるダンスと陰ヨガについてコラムを書いていただきました。

陰ヨガとダンス?!

いきなりそんな話題を振られても、ピンとこない方が殆どではないでしょうか。何より「陰ヨガ」という言葉自体、初めて耳にされる方が多いと思います。

ヨガが趣味として定着するようになった今、ヨガとダンスなら繋がりをイメージしやすいかも知れません。実際に多くのダンサーさんがヨガを取り入れています。

ではどうしてヨガの中でも陰ヨガ?!

プライベートなお話になりますが、私は趣味でベリーダンスを習っています。細かい動きの多いダンスですが、練習にあたり、この陰ヨガが役に立っていると感じています。

ヨガとは?陰ヨガとは?ダンスとの関係は…?

今回はそんな陰ヨガとダンスのお話をしていきたいと思います。

ヨガの流派

まず「ヨガ」についてから始めましょう。

「ヨガ」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。
ストレッチ?リラックス?
実は一言でヨガと言っても様々な流派があります。そして流派よって(最終的ゴールは同じであっても)行う事やアプローチ方法が異なってきます。

日本で主流のポーズを取るヨガは「ハタヨガ」と呼ばれています(ヨガにはポーズを取るだけでなく、瞑想を行うヨガ、奉仕活動をするヨガ等ポーズを行わないものもあります)。

  • 「ハ」→太陽
  • 「タ」→月

つまり相反するエネルギーが調和した状態がヨガと言う訳です。実際のヨガのポーズをイメージして頂くと、色んな方向に体を動かしていますよね。これは反対の方向(上下、左右等)にベクトルを向ける事でバランスを取っている状態となります。

更にこのポーズを取るハタヨガの中にも、いくつか流派があります。

大きく2分すれば、動くヨガ、あまり動かないヨガがあります。

  • 動くヨガ→陽ヨガ
  • あまり動かないヨガ→陰ヨガ、と呼ばれています。

陰ヨガはその名の通り陰の要素がとても強いヨガです。

陰ヨガとは

次に陰ヨガについてもう少し詳しく見ていきましょう。
流派についてお話をした際、陽と陰という言葉が登場しました。こちらは中国の陰陽思想に由来しています。そして陰ヨガはこちらに五行思想が合体した陰陽五行思想、中医学がベースとなっています。

  • 陽→太陽、明、男性、夏、昼、活…
  • 陰→月、暗、女性、冬、夜、静…

陽と陰に優劣はありません。相反しつつも、一方がなければもう一方も存在し得ないからです。どちらかに偏っていると、バランスが崩れてしまいます。

陰ヨガは読んで字の如く、静かな(殆ど動かない)ヨガとなります。具体的には1つのポーズを数分間ホールドします。1クラスで取り扱うポーズ数は(クラス時間やレベルにもよりますが)5〜10個位。そんなに多くはありません。

「動かないとつまらない…」
「楽?」
「寝るヨガ?」
そう思った貴方!クラスを受けてみると、そのイメージを若干覆されるはず。じっとしているだけなのに、体の芯から温まる感覚。滞っていたエネルギーが流れる感覚。

中医学をベースとしたヨガだけあり、経絡にアプローチし、結合組織(筋膜、靭帯、腱など)に働きかけています。また、美肌成分の生成に深く関わっている線維芽細胞の活性化にも効果的と言われています。陰ヨガで体内のヒアルロン酸量を増やせるとしたら、驚きですし嬉しいですよね。

陰ヨガの歴史は、1980年代にポール・グリリー氏、サラ・パワーズ氏がアメリカで広めたものです。中医学に基づいているので、中国の方が自国でスタートしたと思いきや、まさかのアメリカ発祥!ちょっぴり意外ではありませんか?更に興味深いのは、ポール・グリリー氏は日本人の本山博氏に哲学や経絡理論を学んでいる事。日本人もこの世界的に人気の陰ヨガに関与していたなんて不思議なご縁を感じます。

経絡とは

ここでは経絡について、少し述べていけたらと思います。
中医学、そして陰ヨガにおいて経絡はポイントとなります。

経絡…耳にした事はあるけれど、いまいちわからない。確かに経絡は目で見る事が出来ません。解剖をした所で「これが人体の経絡だよ」と説明をする事は不可能だからです。それもそのはず。経絡とは体に流れるエネルギーの通り道。生きているものにしか存在していません。

「気」という言葉には親しみがあると思います。「元気」「根気」「気配り」の「気」です。この気が流れる通り道を経絡と呼んでいます。ツボはこの経絡上に存在しており、内臓に直結しています(注:西洋医学の内臓とは異なります)。

経絡には12種の正経と任脈、督脈があります。

12の正経は以下の通りです。

  • 手の太陰肺経
  • 手の陽明大腸経
  • 足の陽明胃経
  • 足の太陰脾経
  • 手の少陰心経
  • 手の太陽小腸経
  • 足の太陽膀胱経
  • 足の少陰腎経
  • 手の厥陰心包経
  • 手の少陽三焦経
  • 足の少陽胆経
  • 足の厥陰肝経

いきなりこのような事を言われても「何のこっちゃ?」ですよね。詳しい説明は割愛しますが、注目して頂きたいのは「肺」「大腸」…など臓器の名前が出てくる事。中国にも日本にも四季があり、気温、湿度が変わる事で体は変化していきます。その季節にうまく適応する為に、中医学では臓器との関係について述べています。

  • 春:肝、胆
  • 夏:心、小腸
  • 秋:肺、大腸
  • 冬:腎、膀胱

これらと関わりが深いと考えられています。

秋になると乾燥するから喉が痛む…冬はお手洗いが近くなる…何となくご経験から通じるものがあるのではないでしょうか。

東洋医学では体全体、自然界全体を見てバランスを整えていく事を大切にしています。陰ヨガはこれらを踏まえ、経絡にどう働きかけるかを考慮しポーズが成り立っています。

お食事について

中医学では季節の養生として食事についても記述があります。

  • 春:緑の食べ物、酸味
  • 夏:赤い食べ物、苦味
  • 秋:白い食べ物、辛味
  • 冬:黒い食べ物、塩辛味、厚味(こってりとしたもの)

これらを意識して取り入れる事で、季節による不調(春の目眩、夏の暑さ、秋の乾燥、冬の寒さ等)が軽減すると考えられています。ダンスでより良い演技をするためにもお食事は大切にしたいですね。

ダンスにヨガがおすすめな理由

ようやく本題となります。お待たせ致しました。
ダンスでは、リズム感はもちろん、柔軟性、瞬発力、機敏性…など多くの要素が必要となります。始めたばかりは動けない動きも、練習を重ねるにつれ出来るようになるご経験は誰しもあるでしょう。 ただ、いくら練習しても上手くいかない…そのような事もあるかと思います。慣れるまではゆっくり踊り、少しずつスピードを上げていく。つまずいたら、また戻って繰り返す。もちろんこのような練習は大切。そこにプラスαとして陰ヨガを取り入れると、上達が早まると思います。何故なら自分の体を客観視する事が出来るからです。自分の体を見つめる事で、硬い箇所や歪みがわかります。同時にそれは怪我予防にもなります。

陰ヨガのポーズ

それでは実際に陰ヨガのポーズを3つご紹介したいと思います。
下記のポーズはクラスでもよく取り入れ、また自分自身も日常的に実践しているものです。

1. シューレイス(靴紐のポーズ)

*主に下半身にアプローチします

  • ①長座になります
  • ②片脚の上に、もう片脚をのせ膝を曲げます(可能でしたら下の脚の膝も曲げ、膝頭を揃えます)
  • ③前屈をして数分ホールドします(痛みのない範囲でお願いします)
  • ④左右の脚を入れ替え、同様に行います

大腿〜臀部〜腰がストレッチされます。
胆嚢などの経絡に働きかける事が出来ます。

2. サドル

*主に下半身にアプローチします

  • ①割座(お姉さん座り)になります(両膝を曲げるのが辛い時は片方ずつでOKです)
  • ②割座のまま、仰向けになります(キツイと感じる時は下にブランケットなどを入れてサポートしましょう)
  • ③数分ホールドします

前腿がストレッチされます。
胃などの経絡に働きかける事が出来ます。
前腿は腰部に繋がっている為、腰痛改善・予防にも適しています。

3. オープンウィング

*主に上半身にアプローチします

  • ①うつ伏せになり、片腕の肘を直角に曲げマットに置きます
  • ②反対側の手のひらをマットにつけ、肘を立てます
  • ③ マットについている腕側の耳が下の横寝になり、両膝を曲げます
  • ④強度を強めたい時は、上の脚を貝開きのように立てます
  • ⑤数分ホールドします
  • ⑥反対側も同様に行います

腕の付け根、胸が開くのを感じましょう。
心、肺などの経絡に働きかける事が出来ます。
肩凝り、巻き肩改善にも効果的なポーズです。

数分というのはあっという間のようで、じっとしていると意外と長いもの。その間に具体的に自分の体のどこが硬いか、左右差はどうかを感じとってみましょう。時間の経過と共に、体が緩んで来る事もあれば、逆に痛みを感じるケースもあります。ホールド中は臨機応変にポーズをアレンジしてもらって構いません。ポーズを取りながら、しっかり自分の体を観察をする事で知らなかった自分の体を発見します。

ヨガスタジオにおいて、陰ヨガのクラス時間は60〜90分が殆ど。そうは言ってもお忙しい方に毎日それを行えというのは、現実的ではありません。1日1、2ポーズでも効果は十分期待出来ます。是非、生活に取り入れてみましょう。時間帯は寝る前がオススメ。ベッドの上で行い、そのまま就寝したらとっても気持ち良い。リッラクスできるお好きな曲を流してみると癒し効果が高まるでしょう。ちょうど3〜5分くらいの曲ですと、ホールド時間ともピッタリでポーズを味わえます。

メンタル面におけるメリット

「ヨーガとは心の働きを死滅させる事」

ヨーガ・スートラという古代の文献にそう記されています。こちらがヨガの本質。フィジカル面だけではなくメンタル面にもプラスの影響をもたらしてくれる事がわかると思います。

ダンスにおいて意識は外。どう見せるか、伝えるか、見られるか、が重要です。 それに対してヨガの意識は内。ポーズの完成度は問いません。いかにしっかり自分自身と向き合うかが大切になってきます。 先程も申しましたが、陰ヨガではじっくりポーズを行う事で、この内観力を高めてくれます。

ダンス本番で予期せぬ失敗などは誰にでも起こり得る事。そんな時に冷静に対応する力を養ってくれます。

外向きの意識、内向きの意識、どちらも大切にする事でより質の高いパフォーマンスに繋がるはずです。

ここまで陰ヨガとダンスについてお話をさせて頂きました。
1人でも多くの方が陰ヨガの魅力を知って頂き、実生活に取り入れて下さればそれ以上に嬉しい事はありません。

プロフィール
土屋あおい

横浜国立大学教育学部卒
小学校教諭一種免許状・中学校高等学校教諭一種免許状(数学)

平日は会社員、週末にIYC表参道・IYC世田谷にてヨガインストラクター(アシュタンガヨガ、陰ヨガのクラス指導)をしております。趣味はベリーダンスとお菓子作りです。

2010年 ヨガとの出会い
2016年 ヨガインストラクターとして指導開始、現在に至ります

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