運動体験から設計するウェルネス商品— データだけでは見えないユーザーインサイトが導く商品開発

身体体験から生まれる想像力がブランドを創造する

市場調査を行い、ターゲットのペルソナを設定し、機能要件も満たしている。それにもかかわらず、商品がユーザーの心に深く刺さらない・・・。

スポーツウェアやウェルネス製品の開発現場では、このような状況は決して珍しいことではないのではないでしょうか。

デジタルマーケティングの進化によって、企業はかつてないほど多くのデータを扱えるようになりました。購買履歴、レビュー分析、SNSデータ、行動ログ。意思決定はますますデータドリブンになっています。

しかし同時に、こうした疑問も多く聞かれるようになりました。

「データ通を読んで作ったのに、思ったほどヒットしなかった」「広告費などの費用対効果を考えるとそれほどでもない」

ユーザーが商品を評価する基準は、単なる機能スペックだけではありません。

  • 動いたときの快適さ
  • 着用したときのシルエット
  • 鏡に映った自分の印象
  • クラス空間で感じる高揚感

こうした身体を通じた体験が、商品への評価を決定づけます。

つまり、この市場では

スペックでは説明できない価値

が存在しているのです。

海外研究が示す「身体体験」の影響

この現象は近年のマーケティング研究でも裏付けられています。

消費者行動研究の分野では、人の意思決定は論理的思考だけではなく、身体感覚や五感体験に強く影響されることが明らかになっています。この研究領域は身体化認知(Embodied Cognition)と呼ばれています。

心理学者 Lawrence Barsalou の研究では、人間の思考は抽象的な情報処理ではなく、身体的経験と密接に結びついた形で形成されることが示されています。

また、マーケティング研究者 Aradhna Krishna が提唱するセンソリー・マーケティング(Sensory Marketing)では、触覚・視覚・嗅覚などの感覚刺激がブランド評価や購買行動に大きく影響することが示されています。

例えば衣服の研究では

  • 素材の触感
  • 体の動きとのフィット
  • 着用時の自己イメージ

といった要素が、商品体験の質を大きく左右することが報告されています。

つまりユーザーは商品を

頭で理解する前に、身体で評価している

ということです。

データの背後にある「想像力」

ここで重要になるのが、データの背後にある体験を理解するための想像力です。

データは現象を示します。
しかし、その数字の背後でユーザーがどのような体験をしているのかは、データだけでは見えてきません。

例えば次のような体験です。

  • 腕を上げた瞬間に感じるウェアのわずかな違和感
  • リズムが高揚した瞬間に欲しくなる飲料の喉越し
  • 鏡に映る自分の姿から生まれるモチベーション

これらはユーザー自身も言語化しにくい感覚です。
アンケートやインタビューでは表面化しにくいケースが多いです。

しかし、この言語化されない身体体験こそが、商品の継続利用やブランドロイヤルティを大きく左右します。

企業にとって重要なのは、データを否定することではありません。

むしろ

データを起点に、その背後にある体験を想像すること

です。

そして、その想像を商品やサービスとして具体化したとき、初めて創造が生まれます。

現場が持つ身体理解

では、その想像力はどこから生まれるのでしょうか。

一つの答えは、身体が動いている現場にあります。

フィットネスやダンスのインストラクターは、日々多くの参加者の身体の動きを観察しています。

  • どの瞬間に人は動きづらさを感じるのか
  • どの言葉が身体のパフォーマンスを引き出すのか
  • どのウェアが動きを美しく見せるのか

こうした観察は単なる経験ではありません。
長年の現場経験によって培われた高度な身体理解です。

インストラクターは、ユーザー自身も言語化できない身体体験を理解し、そこから新しい体験価値を想像することができます。

つまり彼らは

身体体験から新しい価値を創造する視点を持つ存在

なのです。

フィットネスウェアが影響する運動パフォーマンス

こうした現場知を開発プロセスに取り入れることで、商品開発は単なる市場分析から共創(Co-Creation)へと変化します。

例えばフィットネスウェアの場合、開発において重要になる視点は次のようなものです。

  • 腕を上げたときのシルエットの美しさ
  • ジャンプ動作での生地の追従性
  • クラス空間で映えるデザイン
  • 長時間の運動でもストレスを感じないフィット感

そしてもう一つ重要なのが、

そのウェアが運動時のパフォーマンスにどのような影響を与えるか

という視点です。

ウェアは単なる衣服ではありません。
身体と一体となって動く「パートナー」として機能します。

例えば

  • 可動域を妨げないパターン設計
  • 筋肉の動きをサポートするフィット
  • 動作に合わせて伸縮する素材
  • 運動中の体温調整を助ける通気設計

こうした要素は、運動時の身体の動きや疲労感、集中力に影響を与えます。

さらに見落とされがちなのが、パフォーマンスへの影響力です。

「このウェアを着ると動きやすい」
「このデザインなら自信を持って動ける」

こうした感覚は、ユーザーのモチベーションや運動への没入度を高めます。

この点は研究でも示されています。
2012年、ノースウェスタン大学の研究者 Hajo Adam と Adam Galinsky は Enclothed Cognition(着衣認知)という概念を提唱しました。

この研究では、人は身につける服によって認知や行動が変化することが示されています。

人は着ているものが持つ意味やイメージによって、自身の行動やパフォーマンスが変化するのです。

この視点はフィットネスウェアの設計にも重要な示唆を与えます。

ユーザーはウェアを単なる機能的サポーターとしてではなく、
自分の身体能力や運動意識を高める存在として認識しています。

つまりフィットネスウェアの価値は

身体の動き × 主観的パフォーマンス × 視覚的イメージ

という複合的な体験によって形成されます。

スペック競争から体験競争へ

データドリブンな経営は、現代のビジネスにおいて不可欠です。

しかし、フィットネスやウェルネス市場では、それだけでは見えない価値が存在します。

ユーザーはスペックだけで商品を評価しているわけではありません。
身体を通じた体験によって商品を選び、ブランドに愛着を持つようになります。

だからこそ企業には、

データの背後にある身体体験を想像し、それを創造へとつなげる視点

が求められています。

そこには、次のイノベーションにつながるヒントが確かに存在しています。

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