なぜダンスインストラクターが商品開発の最強パートナーになるのか?ウエア、コスメ、ITツールの事例から、アンケートでは見えない「ユーザーの身体的な本音」を読み解く、新しいマーケティング手法を解説します。
現代のマーケティングにおいて、消費者の購買行動を説明する「ロジック」は溢れています。しかし、フィットネスやウェルネスの現場において、ユーザーが特定の商品を手に取り、使い続ける理由は、必ずしも言語化されたメリットだけではありません。
ここで、日々「身体」を通じて数百人のユーザーと対話しているダンスインストラクターの視点を導入してみると、興味深い示唆が得られます。彼らは、ユーザーが商品と触れ合う瞬間の、ほんのわずかな「動作の滑らかさ」や「表情の揺らぎ」を敏感に察知する、いわば「身体知のプロフェッショナル」だからです。
商品開発における「想定」と、現場の「実感」。この二つの間に横たわるギャップを埋めるヒントは、どこにあるのでしょうか。
1. ウエア開発に見る「用途の拡張」:ホールド感の先にあるもの
例えば、フィットネスウエアの開発を例に考えてみます。開発チームが「激しい動きを支える機能性」を追求するのは当然の帰結です。しかし、開発コンサルとして現場に立つインストラクターは、別の角度から商品を見つめているかもしれません。
「このウエアは、ハードな動きを終えて少し体温が下がってきた時の肌触りが、非常に心地よい。実はこの『リカバリーに向かう瞬間の質感』が、ユーザーの満足度を支えているのではないか?」
これは、機能性が「運動のパフォーマンス」だけでなく、「運動に付随する前後の体験」を豊かにしている可能性を示唆しています。もし、私たちが「動いている最中」の数値データだけを追っていたら、この「着替えの瞬間の幸福感」という価値には辿り着けなかったかもしれません。商品の本当の役割は、開発者が意図した枠を超えて、ユーザーの生活の中で自らアップデートされていく。その瞬間を、インストラクターの目が捉えるのです。
2. コスメが引き出す「自己効力感」:落ちにくさのその先へ
コスメティックにおける機能性も、現場の視点が入ることで、単なる「スペック」から「体験の質」へと昇華されます。
例えば、フィットネス用コスメに求められる「耐汗性」。これは数値で証明可能なエビデンスです。しかし、インストラクターが現場で目にするのは、汗をかいても崩れない肌が生む「ユーザーの視線の変化」です。
現場からのインサイト:
「鏡の中の自分と目が合った時、肌が綺麗に見えると、ユーザーの背筋がスッと伸びる。この瞬間、ダンスのフォームまで美しくなるんです」
こうした「自信の芽生え」は、単なる成分表からは読み解けません。コスメが「肌を保護するもの」から「身体表現の質を変えるもの」へと意味を変える。インストラクターというフィルターを通すことで、商品開発者は、自らのプロダクトが持つ「心理的な機能性」という新しい側面に出会うことになります。
3. ITツールが叶える「コミュニケーションの余白」
フィットネスエリアで導入が進むDXも、現場の視点が加わることで、その本質が浮き彫りになります。
最新の活動量計や管理アプリが提供するのは、精緻なログデータです。しかし、開発パートナーであるインストラクターは、こう問いかけます。
「このデータは、インストラクターと生徒さんの間の『会話』をどう変えるだろうか?」
データが「管理」のために使われるのか、それとも「『昨日より良くなりましたね』という共感のきっかけ」として使われるのか。ITツールが提供するべき真の価値は、テクノロジーそのものではなく、テクノロジーによって生まれる「人と人の間の余白」にあるのかもしれません。現場のプロは、ツールが介在することで生まれる、温かなコミュニケーションの質を見極めるアドバイザーとなります。
パートナーシップが創る、ウェルネスの新しい形
「開発者が込めた想い」と「インストラクターが現場で拾い上げた実感」。この二つが交差する地点に、次世代のスタンダードが隠されています。インストラクターは単なる「代弁者」ではなく、商品の可能性を現場で拡張し続ける「共創パートナー」です。
- ✅ この商品は、ユーザーの日常をどう彩っているのか?
- ✅ 私たちが提供しているのは、モノなのか、それとも身体を通じた新しい自分との出会いなのか?
こうした問いを共有し続けることで、商品開発はより深く、より優しいものへと進化していくはずです。現場の感性とビジネスの論理。その幸せな結婚から生まれるプロダクトが、これからのウェルネス市場をより豊かにしていくことを願って止みません。
