なぜ「十分なデータ」があっても、選ばれない商品が生まれるのか
「事前のアンケート調査では評価が高かったのに、実際の購買にはつながらなかった」
「機能やスペックでは競合より優れているはずなのに、なぜか手に取ってもらえない」
商品開発やマーケティングに携わる方であれば、こうした経験に心当たりがあるかもしれません。デジタル技術の進化によって、私たちはこれまで以上に多くの定量データを扱えるようになりました。一方で、そのデータをもとに導き出した“最適解”が、必ずしもユーザーの実感と一致しない場面があるのも事実です。
とりわけウェルネスやフィットネスの領域では、このズレが起こりやすい傾向があります。なぜなら、「身体感覚」や「心地よさ」「続けたいと思える感情」といった要素は、数値化しづらく、データの外側に残りやすいからです。
本記事では、既存のデータ分析を土台としながら、その解像度をさらに高める視点として、現場の感覚や熱量を取り込む「ライブ・インサイト・マーケティング」という考え方をご紹介します。
言語化される前に生まれる「わずかな違和感」に目を向ける
アンケートやインタビューといった従来型のマーケティングリサーチには、一定の前提があります。それは、ユーザーが自分の行動や選択理由を正確に言葉にできるという前提です。
しかし実際には、人はすべてを意識的に判断しているわけではありません。
例えば、スポーツウェアを試着した際に「なんとなくしっくりこない」と感じたとします。理由を問われると、「デザインが好みではない」「価格が少し高い」といった説明が返ってくることが多いでしょう。
ただ、その背景には、もっと感覚的な要因が潜んでいる可能性があります。
- 動いた瞬間に肩まわりにわずかな引っかかりを感じた
- 汗をかいたときの肌触りが、過去の不快な体験を思い出させた
- 鏡に映ったシルエットが、自分の理想像と少しだけ違って見えた
こうした一瞬の感覚的なズレは、言葉になる前に「今回は見送ろう」という判断へとつながります。この非言語の領域は、静的な調査よりも、身体が実際に動いている“現場”でこそ捉えやすくなります。
「管理された環境」と「日常の現場」で得られる情報の違い
多くのメーカーでは、研究施設やテスト環境で丁寧な検証が行われています。それ自体は非常に重要なプロセスです。ただし、管理された環境と、実際に人が日常的に身体を動かす現場とでは、見えてくる情報の種類が異なります。
テスト環境では、被験者は「評価されている」ことを意識し、動作や反応もどこか意識的になります。一方、ダンスレッスンやフィットネスの現場では、音楽や動きに集中し、自然な状態で身体を使っています。
この没入している状態では、身体の反応はより正直に表れます。
- 無意識にウェアの位置を直す仕草
- インストラクターの声かけに対する瞬間的な表情の変化
- ドリンクを口にした直後の、作られていないリアクション
こうした反応は、商品が生活の中でどう受け止められているかを示す、質の高いヒントになります。現場でしか得られないこの情報に目を向けることが、プロダクトの完成度を高める一助になります。
インストラクターという「感覚の翻訳者」
とはいえ、開発者やマーケターが常に現場に立ち会うのは簡単ではありません。そこで重要な存在となるのが、ダンスインストラクターやトレーナーです。
彼らは指導者であると同時に、日々多くの身体の動きや変化を見続けている身体感覚の専門家でもあります。ユーザー自身が言葉にしない違和感や変化を、経験的に捉えています。
- 「このウェアの日は、動きが少し伸びやかに見える」
- 「レッスン後半にこのドリンクを出すと、飲み残しが増える」
こうした現場感覚は、数値化されていなくても、重要な示唆を含んでいます。
インストラクターを単なる情報発信の担い手としてではなく、ユーザーの感覚を開発側に伝えるパートナーとして位置づけること。これが、Lino Podが考える共創のあり方です。
明日から取り入れられる「ライブ・インサイト」の視点
一人を深く観察する
大量のデータだけでなく、特定のユーザーやインストラクターが、どの瞬間に表情や動きを変えるのかを丁寧に観察します。数値では捉えにくい文脈を理解することが目的です。
開発途中のものを現場で試す
完成後ではなく、プロトタイプの段階で現場に触れてもらい、「機能」よりも「感覚」に焦点を当てたフィードバックを受け取ります。
自分自身が体験する
開発や企画に関わる人自身が、実際に身体を動かし、汗をかいた状態で商品に触れてみる。そこで得られる気づきは、机上の議論とは質が異なります。
データに「人の感覚」を重ねる
データは非常に有用ですが、それだけで未来を完全に予測することはできません。一方、現場で生まれる身体感覚や感情には、これから求められる価値のヒントが含まれています。
「ライブ・インサイト・マーケティング」とは、データを否定するものではなく、そこに人の体温や文脈を重ねていくための考え方です。
もし今、商品開発やマーケティングに少しでも違和感を感じているなら、一度視点を現場に戻してみてください。人が動き、楽しみ、集中しているその場には、次の一手につながる確かなヒントが静かに存在しています。
