健康経営にダンスを取り入れる意味とは?肩周りを動かす時間が職場にもたらすもの

健康経営にダンスは活かせるのか。肩周りを動かす軽いダンスを例に、運動が苦手な人も参加しやすい施策設計と、社内で一緒に動く意味を考えます。

健康経営という言葉は広く知られるようになりましたが、現場で実施される施策には、まだ偏りがあるようにも感じられます。たとえば、運動習慣がある人にはなじみやすい一方で、運動が好きではない人や、日々の業務で余裕がない人にとっては、少し距離のある取り組みとして受け止められてしまうこともあるかもしれません。

経済産業省や健康経営の公式情報でも、健康経営は、従業員の健康を経営的な視点で考え、活力向上や組織の活性化につなげていく考え方として整理されています。そうだとすれば、企業にとって重要なのは、単に「健康によさそうなこと」を用意することではなく、より多くの人が無理なく関われる形になっているかどうかなのではないでしょうか。

その視点から見たとき、ダンスは少しおもしろい位置にあります。ダンスというと、本格的な振付や運動量の多い活動を想像する人もいるかもしれません。けれど実際には、肩周りを軽く動かす、音に合わせて上半身をゆるめる、といった小さな動きから始めることもできます。そして、その小さな動きを社内で共有するとき、身体のケアだけではない意味が生まれてくる可能性があります。

健康経営は、“頑張れる人のための施策”だけでは広がりにくい

健康経営の施策は、意義があるものであっても、一部の人しか参加しづらい設計になっていると、社内全体には広がりにくくなります。運動習慣のある人には魅力的でも、運動が苦手な人、忙しくて時間を取りづらい人、あるいは「そこまで頑張りたくない」と感じる人には、最初の一歩が重たく感じられることもあるでしょう。

もちろん、負荷のある運動や本格的なプログラム自体が悪いわけではありません。ただ、健康経営を「組織全体の取り組み」として考えるなら、必要なのは一部の前向きな人だけが参加する施策ではなく、参加のハードルが低く、まずは試してみようと思える入口なのかもしれません。

そう考えると、健康経営の価値は「何をするか」だけでなく、「どんな気持ちの人でも入りやすいか」によっても左右されるように思えます。

運動が得意な人だけの施策にしない。健康経営に必要な“参加しやすさ”とは

健康経営は、運動の成果を競う場ではありません。目的は、従業員の健康保持・増進を通じて、働く土台を整え、組織の活力につなげていくことにあります。だとすれば、重視したいのは運動能力ではなく、自然に参加しやすいことです。

どれほど意義のある施策であっても、「体力に自信がある人向け」「運動好きの人向け」という印象が強いと、参加者は限られやすくなります。その点、短時間でできて、服装や経験をあまり問わず、見学している人も入りやすい内容であれば、健康経営の施策として受け入れられやすくなります。

ここで大切なのは、完璧にやることを求めないことです。少し動く、少し緩む、少し気分が切り替わる。まずはそれくらいの設計の方が、実は多くの人に届きやすいのではないでしょうか。

肩周りを動かすだけでも、気分の切り替えにつながることがある

デスクワークや会議が続く職場では、肩周りや首まわりに緊張がたまりやすくなります。そのため、健康経営の施策というと、つい「しっかり運動すること」を思い浮かべがちですが、実際には、肩を上げ下げする、肩甲骨まわりを動かす、胸を開く、音に合わせて腕をゆるく動かす、といった小さな動きからでも十分に意味を持ちうるでしょう。

こうした動きは、体力差が出にくく、初めての人でも入りやすいのが特徴です。また、ダンスという形をとることで、「ストレッチをやりましょう」と言われるよりも、少しやわらかく、構えずに参加しやすくなる場合もあります。上手に踊ることが目的ではなく、体を固めたままにしないこと、気分を少し切り替えること。その程度の位置づけの方が、むしろ企業の施策としては機能しやすいのかもしれません。

ひとりでほぐすだけでは終わらない。社内で一緒に動くことの意味

肩周りをほぐすだけなら、一人でもできます。自席で軽く回すこともできますし、休憩時間にストレッチをすることもできるでしょう。けれど、社内で同じ時間を共有しながら行うと、その時間は単なるセルフケアでは終わらない可能性があります。

たとえば、普段は会議やチャットでしか接点のない人と、同じ音に合わせて肩を動かす。少し照れくささがあり、少し笑いが起きる。動きがそろわなくても、それがちょっとした会話のきっかけになる。こうしたことは一見ささいですが、職場の空気を少しやわらげる要素にはなりえます。

もちろん、短いダンスの時間だけで組織が大きく変わるわけではないでしょう。ただ、会議室の中だけではつくりにくい接点を生む一助として考えることはできそうです。

ダンスの価値は、うまく踊ることではなく“場に入りやすくすること”

企業でダンスを取り入れるときに気をつけたいのは、「踊れる人が目立つ場」にしないことです。そうなると、運動が苦手な人や人前で動くことに抵抗がある人は、かえって距離を取りやすくなってしまいます。

ここで目指したいのは、パフォーマンスではなく、場への参加のしやすさです。肩を回す、胸を開く、左右にゆるく揺れる。その程度の簡単な動きであれば、「できる・できない」の差が出にくく、参加への心理的ハードルも下がります。

つまり、ダンスの価値は「うまく踊ること」そのものよりも、同じ場で少し身体をゆるめることを共有できる点にあるのかもしれません。そこに音楽が加わることで、業務の延長とは少し違う空気が生まれ、普段よりも柔らかい接点が生まれることも期待できます。

健康経営の次の一歩は、“一緒に整う時間”を持つことかもしれない

健康経営というと、制度や指標、施策の整備に目が向きやすくなります。もちろん、それらは大切です。ただ一方で、職場の空気や関係性のように、制度だけでは動かしにくいものもあります。

肩周りを動かすだけの、ほんの短いダンス。それは、一見するととても小さな取り組みに見えるかもしれません。けれど、社内で一緒に行うことで、身体のリフレッシュだけでなく、場の緊張をやわらげたり、関係性に少し余白をつくったりする可能性があります。

健康経営に必要なのは、特別なことばかりではないのかもしれません。大きく変えることよりも、まず少し整うこと。頑張れる人だけが動くのではなく、みんなが入りやすい形をつくること。そして、一人で行うケアだけでなく、組織で一緒に整う時間を持つこと。ダンスは、そのための入口のひとつとして考えられるのではないでしょうか。

>> Lino Podマガジントップへ戻る