ダンスフィットネスと聞くと、若い女性向けの運動プログラムを思い浮かべる方も多いかもしれません。
しかしアメリカでは、大人向けのダンススタジオだけでなく、企業のウェルネス施策、シニアの健康づくり、子どもの身体活動など、さまざまな場面でダンスが活用されています。
注目したいのは、同じダンスをすべての人に提供しているわけではないことです。
働く人には、ストレスから気持ちを切り替える時間。
シニアには、身体を動かしながら人とつながる機会。
子どもには、楽しみながら身体を動かし、自分を表現する体験。
参加する人が求める変化に合わせて、プログラムの内容や伝え方が変えられています。
アメリカの企業やスタジオの事例をもとに、ターゲット別のニーズと、日本でダンスクラスやイベントを企画する際に活かせる視点を考えます。
アメリカでは「ダンスを習う」以外の価値が広がっている
アメリカのダンスフィットネス企業を見ると、振付やダンス技術の習得だけを価値としているわけではありません。
運動、ストレス解消、セルフケア、コミュニティ、チームビルディングなど、参加者が得たい体験に合わせて複数のプログラムがつくられています。
大人向けダンスブランドのDivaDanceは、ポップやヒップホップなどの振付クラスに加え、ダンスカーディオや、メンタルウェルネスとセルフケアをテーマにしたクラスを展開しています。公式サイトでは、初心者を含むさまざまなレベルの参加者を受け入れ、自信やコミュニティを育むことをブランドの価値として掲げています。〔注1〕
Fly Dance Fitnessも、高強度のダンスカーディオだけでなく、筋力トレーニング、ステップエアロビクス、ストレッチや呼吸を組み合わせたクラスなど、目的の異なるプログラムを提供しています。〔注2〕
こうした事例から見えてくるのは、ダンスのジャンルから企画を始めるのではなく、参加者が得たい変化からプログラムを設計する考え方です。
働く人が求めるのは、運動量よりも気持ちを切り替える時間
仕事や家庭の予定に追われるなかで、運動のために長い時間を確保することは簡単ではありません。
働く人向けのプログラムでは、「本格的にダンスを習うこと」よりも、短時間で身体を動かし、仕事から気持ちを切り替えられることが参加のきっかけになります。
アトランタのダンススタジオDance 101は、企業向けの健康・ウェルネス・エンパワーメントプログラムを提供しています。
掲げているのは、ダンスを教えること自体ではなく、ダンスを使ってチームワークや職場文化、問題解決、ストレス管理などについて学ぶという考え方です。ダンス経験がない人も参加できる内容として設計されています。〔注3〕
重要なのは、振付を正確に覚えることではありません。
音楽に合わせて身体を動かす。
普段とは違う方法で同僚と関わる。
少し間違えても笑い合える時間をつくる。
こうした体験によって、仕事中には見えにくい人柄が表れ、部署や役職を越えたコミュニケーションが生まれる可能性があります。
企業向けウェルネスの提供方法も多様化しています。
ClassPassの企業向けプログラムでは、企業が福利厚生としてプランを導入し、従業員が複数のフィットネススタジオ、ジム、ウェルネスサービスから、自分に合ったものを選べる仕組みを提供しています。〔注4〕
Strive Well-Beingは、企業向けにオンサイトとオンラインの両方でフィットネスプログラムを提供しています。内容にはダンスフィットネスやZumba、ヨガ、ピラティス、筋力トレーニングなどがあり、従業員の関心や企業の目的に合わせて設計されています。〔注5〕
一つの運動を全員に提供するだけでなく、複数の選択肢を用意する方法や、オフィスと自宅のどちらからでも参加できる方法が取り入れられています。
ROIだけでは測れない価値
企業のウェルネス施策では、医療費削減などの金銭的効果を示すROIだけでなく、VOIという考え方も使われています。
VOIは、投資によって生まれる幅広い価値を捉える考え方です。
例えば、
- 従業員の幸福度
- プログラムへの参加や利用状況
- エンゲージメント
- 組織への愛着
- 職場のコミュニケーション
- 働きやすさ
- 人材の定着
など、すぐには金額に換算しにくい変化も含めて評価します。
WTWは、企業のメンタルヘルス施策の評価について、ROIだけを成功指標とするのではなく、利用率、エンゲージメント、健康状態の変化などを含む多面的な測定が必要だと説明しています。〔注6〕
ダンスフィットネスも、消費カロリーや参加人数だけでなく、
「気分を切り替えられたか」
「普段話さない人と交流できたか」
「参加後に前向きな気持ちになれたか」
といった変化を見ることで、企業にとっての価値を伝えやすくなります。
ダンスフィットネスは、身体を動かす福利厚生にとどまらず、職場の空気や人間関係に働きかけるコミュニケーション施策としても企画できます。
シニアに届けるのは、運動だけではなく「また来たい場所」
シニア向けのダンスフィットネスでは、筋力やバランス能力の維持、関節への負担、安全な運動強度などへの配慮が欠かせません。
ダンスを活用した介入については、シニアのバランス、移動能力、認知機能、生活の質などとの関係を検討した研究も重ねられています。ただし、プログラムの種類や実施条件によって結果は異なるため、対象者に合わせた安全な設計が必要です。〔注7〕
身体機能の維持だけを目的にすると、ダンスである意味が薄くなってしまうこともあります。
ダンスには、音楽を楽しみ、人と一緒に動き、自分なりに表現できる特徴があります。
「運動しなければならない」ではなく、
「あの曲でまた踊りたい」
「教室の仲間に会いたい」
「前より動けるようになった」
と思えることが、継続する理由になります。
日本でシニア向けプログラムを企画するなら、次のような要素が考えられます。
- 椅子を使ったダンス
- 転倒予防を意識したステップ
- 関節への負担を抑えた動き
- 懐かしい音楽を使ったクラス
- レッスン後に会話できる交流時間
- 柔軟性やバランス能力の定期的な確認
届ける価値は、健康寿命の延伸だけではありません。
「まだ身体を動かせる」
「新しいことを始められる」
「ここに来れば誰かに会える」
そう感じられる場所をつくることも、シニア向けダンスフィットネスの役割です。
キッズダンスは、技術を教えるだけのプログラムではない
子どもがダンスに興味を持つ入り口には、K-POP、J-POP、ヒップホップ、アニメソング、動画などがあります。
好きなアーティストのように踊りたい。
動画で見た振付に挑戦したい。
友達と一緒に踊りたい。
こうした気持ちが、身体を動かすきっかけになります。
アメリカの身体活動ガイドラインでは、6歳から17歳の子どもや青少年に対して、1日60分以上の身体活動が推奨されています。また、年齢に合い、楽しく、さまざまな種類の活動に参加できる機会をつくることが重要とされています。〔注8〕
ダンスは、音楽や流行を入り口に、身体活動に苦手意識がある子どもにも興味を持ってもらえる可能性があります。
ただし、子ども向けプログラムで考えたいのは、踊れるようになることだけではありません。
音楽を聴いて自分なりに動きを考える。
仲間の動きを見ながらタイミングを合わせる。
人前で表現する。
一つの振付を完成させる。
こうした経験を通じて、表現する楽しさや協調性、達成感を育むことができます。
ヒップホップなどを扱う場合は、動きだけでなく、その音楽や表現が生まれた文化的な背景を伝えることも大切です。
日本で企画するなら、子どもが自然に興味を持つ音楽を入り口にしながら、
- 表現する楽しさ
- 自分で考える経験
- 仲間と動きを合わせる体験
- 小さな成功体験
- 異なる音楽や文化への理解
まで含めたプログラムにすることで、一般的なダンスレッスンとは異なる価値をつくれます。
大人がダンスに求めるのは、身体を変えることだけではない
大人がダンスフィットネスに参加する目的は、体重を落とすことや身体を引き締めることだけではありません。
仕事や家事から離れて音楽に集中したい。
人目を気にせず自分を表現したい。
同じ趣味を持つ人とつながりたい。
以前のように身体を動かす楽しさを取り戻したい。
こうした気持ちに応えるサービスも生まれています。
DivaDanceは、初心者から経験者まで参加できる大人向けダンスクラスを展開しています。振付やダンスカーディオだけでなく、自信、喜び、コミュニティ、セルフケアといった価値を打ち出している点が特徴です。〔注1〕
同社のDanceRxは、低負荷の振付に、ジャーナリング、呼吸、ストレッチ、静かな時間を組み合わせた75分のプログラムです。医療行為としてのダンスセラピーではなく、ダンスセラピーから着想を得たセルフケアの時間として提供されています。〔注9〕
ダンスフィットネスを選ぶ理由は、「最も効率よくカロリーを消費できるから」とは限りません。
音楽、インストラクター、参加者同士の雰囲気を含めて、その場所にいる自分を少し好きになれることが、継続する理由になることもあります。
年代だけでなく、参加目的によってプログラムを分ける
ターゲットを分けるとき、年齢や性別だけを見ると、実際のニーズを捉えきれないことがあります。
同じ40代でも、思い切り汗をかきたい人もいれば、運動に苦手意識があり、まずは音楽を楽しみたい人もいます。
同じシニア層でも、日常的に運動している人と、久しぶりに身体を動かす人では、適した内容が異なります。
Fly Dance Fitnessでは、高強度のダンスカーディオ、初心者向けクラス、ウェイトを使った筋力トレーニング、サーキット、ステップエアロビクス、ストレッチと呼吸を組み合わせたクラスなどを提供しています。年代だけで分けるのではなく、運動経験や目的に応じて選べる構成です。〔注2〕
日本で企画する場合も、
- ダンス初心者向け
- 短時間で気分転換したい人向け
- しっかり汗をかきたい人向け
- 筋力を維持したい人向け
- 身体をゆっくり整えたい人向け
- 人と交流したい人向け
といった分け方が考えられます。
ダンスのジャンルから企画を始めるのではなく、参加者が求める変化から逆算することが大切です。
「ヒップホップクラスを開催する」ではなく、
「仕事帰りに気持ちを切り替えられる時間をつくる」。
「シニア向けダンスを開催する」ではなく、
「音楽を通じて外出と交流のきっかけをつくる」。
「キッズダンスを教える」ではなく、
「子どもが自分を表現し、仲間と協力できる体験をつくる」。
こう考えると、音楽や振付だけでなく、開催時間、会場、運動強度、インストラクターの役割、参加前の案内、レッスン後の交流まで変わってきます。
ダンスの種類ではなく、参加後の変化から企画する
アメリカの事例から学べるのは、ダンスフィットネスの対象を広げればよい、ということではありません。
働く人、シニア、キッズ、大人の初心者では、参加する理由も、安心して参加できる条件も異なります。
必要なのは、一つのイベントですべての人を集めることではなく、対象となる人の日常を具体的に見ることです。
どのような一日を過ごしているのか。
何に疲れているのか。
どのような不安が参加を妨げているのか。
参加した後、どのような気持ちになってほしいのか。
その答えによって、プログラムの内容も伝える言葉も変わります。
ダンスフィットネスが届けられるのは、ダンスの技術だけではありません。
気分を切り替える時間。
人とつながる場所。
自分の身体への自信。
新しい文化に触れる体験。
自分を表現する喜び。
誰に、どのような変化を届けるのか。
そこから考えることが、ダンスフィットネスを一時的なイベントではなく、継続的なサービスへ育てる第一歩になります。
ダンスを取り入れたクラス・イベント企画
企業のウェルネス施策、社内イベント、地域や施設での健康プログラム、大人の初心者向けダンスイベントなど、目的や参加者に合わせたダンスクラスの企画にご興味がございましたらぜひお気軽にお問い合わせください。
「ダンスを取り入れたいが、どのような内容がよいか分からない」
「参加してほしい人に合ったプログラムをつくりたい」
「運動だけでなく、交流やチームづくりにつながる体験にしたい」
開催目的や対象となる方について伺いながら、コンセプト設計、クラス内容、インストラクターの選定、参加者への伝え方まで企画します。
参考資料
〔注1〕DivaDance「Adult Dance Classes & Dance Fitness」「About Us」。初心者を含む大人向けに、振付、ダンスカーディオ、ウェルネスをテーマにしたクラスを展開し、自信とコミュニティをブランドの価値として掲げている。
〔注2〕Fly Dance Fitness「Workouts that Work For YOU」「Dance to Your Own Beat」。ダンスカーディオ、筋力トレーニング、ステップ、呼吸やストレッチを含む複数形式を紹介している。
〔注3〕Dance 101「Corporate Health, Wellness & Empowerment Programs」。企業向けにチームワーク、職場文化、ストレス管理などをテーマとしたプログラムを提供。
〔注4〕ClassPass「Corporate Wellness Program」「How the ClassPass Corporate Wellness Program Works」。企業が補助するプランを通じ、従業員が複数のフィットネス・ウェルネスサービスを利用できる仕組みを紹介している。2
〔注5〕Strive Well-Being「Onsite & Virtual Corporate Wellness Programs」「Onsite & Virtual Corporate Fitness Programs」。企業向けにオンサイトとオンラインのプログラムを提供し、ダンスフィットネス、Zumba、ヨガ、筋力トレーニングなどを例示している。
〔注6〕WTW「7 Steps to Measure Your Organization’s Mental Health Program」。ROIだけでなく、利用率、エンゲージメント、健康上の成果などを組み合わせた多面的なプログラム評価について説明している。
〔注7〕高齢者を対象としたダンス介入の効果について検討したシステマティックレビューおよびメタ分析。認知機能、バランス、移動能力、生活の質、転倒リスクなどが評価されているが、研究によって結果や条件は異なる。
〔注8〕CDCおよび米国保健福祉省の身体活動ガイドライン。6歳から17歳に対して1日60分以上の身体活動を推奨し、年齢に合った、楽しく多様な活動機会の重要性を示している。
〔注9〕DivaDance「DanceRx: Dance Therapy-Inspired Wellness Class」。低負荷の振付、ジャーナリング、呼吸、ストレッチなどを組み合わせた75分のセルフケアプログラムとして紹介している。
