近年、「健康経営」という言葉が一般化し、多くの企業で関心を集めています。以前は “従業員の健康対策” として福利厚生の一部のように捉えられていたものが、今では企業の利益構造そのものを左右する経営テーマとして扱われるようになってきました。
従業員の健康状態と生産性の関係が、データを伴って明確に示される時代になったことが背景です。
しかし、健康経営を推進しようとすると、企業が必ず直面する壁があります。それが「成果をどう測るのか」という問題です。健康経営の効果を示すには、適切な指標が欠かせません。指標が曖昧なままでは、施策の良し悪しを判断できず、経営層への説明も不十分になってしまいます。
そこで本コラムでは、実際の企業で使われている健康経営の指標を、できるだけわかりやすく体系化して紹介します。利益につながる健康経営を実現するための “指標設計” の考え方も併せて解説します。
健康経営は「見える化」から始まる
健康経営を円滑に進めるために重要なのは、まず現状を可視化することです。
「従業員がなんとなく元気そう」「雰囲気は悪くなさそうだ」——このような印象だけでは、本質的な問題は見えてきませんし、経営判断にもつながりません。
そこで役立つのが、
制度・健康状態・職場環境・経営成果
という4つの領域に指標を整理するという考え方です。
これは大企業でも中小企業でも活用しやすく、多くの先進企業が採用しているフレームです。
【1】制度・取組の指標——仕組みの整備度が企業の本気度を映す
健康経営の第一歩は、企業として必要な制度や仕組みが整っているかを確認することです。
たとえば、
- 健康診断の実施率
- ストレスチェック実施率
- 産業医・保健師の配置
- メンタルヘルス相談窓口の整備
- 禁煙や運動、食生活改善の支援制度 など
これらは会社として「健康に投資する意志」を示す基盤です。
さらに重要なのは“制度がどれだけ利用されているか”という点です。
制度があっても従業員が使っていなければ、効果は生まれません。
- 再検査受診率
- カウンセリング利用率
- 研修受講率
- 各種健康プログラムの参加率
これらは組織の健康意識や環境整備の成熟度を測るうえで非常に重要です。
制度・取組の指標は管理しやすく、改善の効果も早くあらわれるため、健康経営の入り口として最適な領域だといえます。
【2】従業員の健康状態の指標——組織のリスクを把握する
制度の整備が進んだら、従業員の健康状態を把握する段階に入ります。
● 身体的健康
- 生活習慣病リスク者の割合
- メタボ該当者・予備群
- 喫煙率
- 運動習慣
- 睡眠の質
40代以降の生活習慣病は医療費の増加やプレゼンティーイズムにつながり、企業にとって大きな負担になります。そのため、身体的健康は必ず押さえるべき指標です。
● メンタルヘルス
- 高ストレス者の割合
- メンタル不調による休職者
- 復職率
メンタル不調は休職・離職につながりやすく、組織の生産性だけでなく、職場の雰囲気やチームワークにも影響を及ぼします。
健康診断やストレスチェックのデータは、部署別・年代別に分析することで傾向が見えやすくなり、効果的な対策の立案につながります。
【3】職場環境の指標——働きやすさは健康を支える土台
健康経営は個人の健康だけでは完結しません。
職場環境そのものが従業員のコンディションに影響を及ぼし、最終的には企業の業績にも跳ね返ってきます。
代表的な指標は次のとおりです。
- 長時間労働者の割合
- 有給休暇の取得率
- 離職率
- エンゲージメントスコア
- 心理的安全性
- 職場満足度
エンゲージメントが低い組織では、生産性の低下だけでなく、創造性の不足、顧客満足度の低下、人材流出など、さまざまな問題が生まれます。
逆に、働きやすい職場づくりと健康経営が噛み合うことで、優秀人材の定着や採用力の向上につながるケースも多く見られます。
職場環境の指標は、中長期的な企業力を左右する重要な領域です。
【4】経営成果の指標——健康と利益をつなぐ“核心”
健康経営の価値を経営層に示すうえで最も重要になるのが、経営へのインパクトを示す指標です。
代表的なものは、
- アブセンティーイズム(病欠・休職の損失)
- プレゼンティーイズム(出勤しながら生産性が下がる状態)
- 医療費の増減(会社負担分)
- 労災コスト
- 採用力・定着率の向上
- 健康施策のROI(投資対効果)
特にプレゼンティーイズムは“見えにくい損失”ですが、実は企業にとって最も大きいコストと言われています。病欠よりも費用インパクトが2〜4倍大きいという研究報告もあります。
健康経営は「やさしい会社づくり」のためのものではなく、
利益を上げるための経営手段である
という認識が企業に広がりつつあるのは、こうしたデータが示す事実によるものです。
因果関係を押さえたKPI設計が健康経営を成功させる
健康経営では、指標をただ並べるだけでは成果につながりません。
重要なのは、
という因果を意識して指標を設計することです。
例えば、
- 禁煙支援の実施 → 喫煙率が低下 → 医療費の削減
- メンタルケア強化 → 高ストレス者が減少 → 休職率が低下 → 生産性が向上
- エンゲージメント向上 → 離職率が低下 → 採用コストの削減
このようにストーリーを描けると、経営層への説明もスムーズになり、投資判断もしやすくなります。
まとめ:指標は“経営言語”。健康経営は利益を生む投資
健康経営は、従業員の健康を守るための取り組みでありながら、同時に企業の利益拡大に直結する戦略でもあります。
適切な指標を設定し、変化を見える化しながら改善を続けていくことで、組織力は確実に向上していきます。
いま企業に求められているのは、
「良いことをやっている」
から一歩進んで、
「企業価値を高める健康経営」へと進化させること です。
貴社に合わせた指標設計、健康経営スコアカードの作成、ROI算定などもお手伝いできますので、必要であれば気軽にお知らせください。
健康経営は、指標を整えることで初めて力を発揮する取り組みです。ぜひ自社に最適な“見える化”から始めてみてください。
